
永遠なんてないから、今を生きてくれ
──前作『Strip』から約3年半、メリーのニューアルバム『The Last Scene』がリリースされました。3年半という時間は、それぞれにとってどういう時間だったのでしょうか?
結生 その期間、これといって大きなリリースがなく、長いツアーもなかったんですが、自分の中では〈実演配信〉がでかくて。これまでメリーが作ってきた楽曲、アルバムを、4人でどう表現していくのか。それを配信という形で世に出したんですが、そこでこれまでの一曲一曲をおさらいできたなと思っていて。今思うと、今後のメリーの楽曲を作るうえでの材料にもなっていたと思います。
ネロ 確かにメリーの4人のサウンドを探求した期間ではあったと思います。結生くんが言ったように、〈実演配信〉は5人バンドでやってきたものを4人で改めて振り返ったわけで。それがなかったら、ライブバンドとしてのメリーをもう一度見直せなかったと思うんです。その期間はもう必死すぎてあんまり覚えてないんですけど(笑)。
テツ 今思うとマニアックなものを突き詰めた3年半だったなと思うんですね。偏愛をテーマにした『Strip』を作って、〈東京大ストリップショウ〉というツアーを回り、その後にキワモノたちと対峙した2MAN TOUR〈魑魅魍魎2〉、さらにコンセプトツアーをやって。世に出ていくというよりは、自分たちは一体どういうバンドなんだろう?というところを突き詰めた、転換期だったなと思います。
ガラ 僕は音楽というよりも、自分はなんでバンドを始めたんだ?とか、歌っているんだ?っていうことを考える3年半だったなと思っていて。バンドを始めたきっかけだったり、憧れだった先輩方が先に逝ってしまうということが続いたので、今の自分に何ができるのかな?とか、永遠なんてないんだなとか、当たり前ってないんだなっていうことをリアルに感じたんです。そういう人生観とか死生観というものを、今までも歌詞には書いてきたんですけど、より一層リアルに感じるようになりました。当たり前にいるものだと思っていた人が急にいなくなって、僕らもいつまでバンドをやれるんだろう?とか、特に僕は歌なので、いつまで歌っていられるんだろう?とか。
──でも、パンクやロックの寿命は短いと思っていたでしょう?

ガラ それこそステージの上で死ねたら最高!とか思っていたんですよ。だけど今は嫌ですもんね。1秒でも長くステージにいたいし、思いを伝えたいなと思う。メンバー5人で始めた頃は、誰かが辞めたら終わりって言ってたんですけど、その頃よりも確実にファンの人がいて、関わってくれる人もいて、僕らが先輩たちの音楽や歌で人生を変えられたように、メリーを聞いて変えられたと言ってくれる後輩もいる。だから僕らの考えだけでは勝手に辞められないな、というところがあるんですよ。だからちゃんと自分たちで答えを出して、それをちゃんと伝えたいんです。
──『The Last Scene』は遺作になってもいい、という思いも込めている?
ガラ そういう思いもあって、このタイトルをつけたんです。ちょっと重めになっちゃってるんですけど(笑)。だから今作を作るうえで、歌詞のことしか考えてなかったんです。正直、曲はなんでもよかったというか。僕がやるべきことは、自分の思いを歌詞に書いて歌うだけ。今までは楽曲のことに口を出したりしてたんですけど、今回はすべてお任せしたので、よりバンド感が増しているのかもしれないですね(笑)。
──楽曲作り、サウンドメイクにおいて、何かテーマやコンセプトはありましたか?
結生 コンセプトがないんですよ。なので、今回はこんな曲を狙って作ろう、みたいな意識はなく、自然に出てきた曲が多いです。あと、作詞と作曲の役割が完全にくっきりと分かれたなと思いまして。今までメリーって曖昧だったんですよ。
──作曲者とは別に、ガラさんが歌メロを作るという。
結生 そうです。これまではそのパターンが主流でしたが、今回はほぼ作曲者がメロディをつけて、ガラがそのメロディに歌詞を当てはめていったんですね。だからメロディに対する歌詞の響き方だったり、譜割りだったり、結構細かいところまでガラとしっかりやり取りができたんですよ。
ガラ 曲に関しては僕がそうやって手放したことによって、メリーっていうバンドをすごく俯瞰で見られたんです。だから曲的に新しいことはやってないんだけど、メリーの基盤ってこういうことなんだと。結生くんはバンドがやりたいんだな、と。
結生 だから今回はめちゃくちゃシンプルだし、王道だと思うんです。一つ言えることは、アレンジにめちゃくちゃ時間をかけたこと(笑)。今までで一番かけたと思います。基盤となるコード進行やメロディはシンプルだから、たぶん全曲アコースティックバージョンでやってもすんなりいくと思う。
──それも面白そうですね。では具体的に中の楽曲について伺っていきましょう。バラード曲でアルバムが始まるというのは、今までのメリーにはない印象ですね。

結生 「endroll」は、映画のエンディング曲という感覚なんです。最初はもうちょっと淡々とした歌ものだったんですけど、途中でバラードを1曲目にするのも面白いんじゃない?っていう話が出てきて。一曲目にするならと、アレンジで壮大さを足したり、ちょっと幻想的な深いところを意識しました。
ネロ 自分が好きなバンドにも、1曲目にバラードを置いたアルバムを出している人たちもいて。ついにメリーもそこにきたか、という感覚です。ドラムも何かグッと我慢するというか、力を抜くような感覚で。ここから次の激しい曲にいくと、最高に気持ちがいいんですよね。
テツ ツアー初日はこの曲で幕が開けたんですけど、その瞬間に緊張からスーッと深いところに入っていくような感じがあって。それがすごく心地よかったです。
ガラ この「endroll」の歌詞を、アルバムの中で一番最初に書いたんですよ。曲作りしている時から、この曲がポイントになる気がしていたので、最初に書きたいと思って。それで書いていくと、結構ストレートに書いてしまって、これ大丈夫かな?ってところもあったんですけど、これが今の自分のリアルな気持ちだし、包み隠すことなく今の自分の想いを出そうと思いました。この歳になると、いろいろとお別れすることの方が多くなるじゃないですか。今しか残せない思いを、ここに閉じ込めておきたいと、自分でも絶対に忘れたくないから。そういう思いで歌詞を書きました。確実に今までのメリーが作ってきたバラードとは、重みがまた違うんですよ。重さの中にも、少し光も見えるような。もっとライヴで育てていきたいなと思います。
──2曲目はヘヴィな「Smell」を置いて、ガラリと空気を変えてきますね。
結生 この曲は10年ぐらい前のデモから引っ張ってきたんですよ。今のメリーにうまく溶け込めたんじゃないかなと思います。
ネロ 23年間やってきたメリーのパンクテイスト。それをそのままシンプルに出す。それに尽きます。こういう激しい曲で世の中に不満をぶちまけるのって、自分たちが健康じゃないとできないなと思うんですよ。こういう激しい曲でライヴハウスで発散できるのは、幸せなことだと思いました。
結生 この曲だけドラムのスネアがめちゃくちゃカンカンいってるんですけど。あえてそういうスネアを使って、ネロを開放させた(笑)。
テツ これは“みんなでぶちまけましょう”っていう曲ですね。
ガラ この曲のテーマは“生きる”。何があっても生きていくんだっていう。死んじゃったら終わりだっていうことを歌詞にしました。
──「背徳のスケルトンダンス」はアッパーチューンで、また流れを変えます。
結生 この曲は昔の作り方で、メロディなしの状態で作ったオケをガラに渡して、ガラが自由に歌詞とメロを乗っけたんです。だからイキイキしてる(笑)。ギターやロックオルガンがガンガンに入っていて、とにかく派手に派手にということを意識しましたね。
ガラ もっともっと弾けたいよね。曲を聴いてすごくライヴが思い浮かんだので、“ステージで歌ってる俺”っていうことで、 “スケルトンダンス”にしたんです。僕はよく“骨”って言われるので(笑)。ライヴハウスで骨の標本がくねくね踊っているようなイメージです。
──何か言っているようで、何も言ってないようで(笑)。
ガラ そうそう。バカで楽しい感じ。小中学生時代に、何が楽しかったんだろう?って思うようなバカみたいなことをよくやっていたじゃないですか。そういうパーティー感を出したら楽しいだろうなと思って。
結生 バカで楽しい曲ってメリーに何曲かあると思うんですけど、それはメリーにとって一つの武器だなと思っているんですよ。
──そして「スターチス」。
ガラ 憧れた人への思いをそのまま歌詞にしました。自分に何ができるんだろう?って考えた時に、自分は歌詞を書いてステージで歌う、それでしか返すことはできないなと思って。でもずるいですよね。最後まで追いつけなかったし、触れることすらできなかった。それでいなくなっちゃうなんて、ちょっとかっこよすぎるなっていう。
──憧れた人とは、櫻井敦司さん(BUCK-TICK)と特定しても大丈夫ですか?
ガラ はい、大丈夫です。隠して書くこともできたとは思うんですけど、この曲はそうじゃなかったですね。悲しいものは悲しい。自分の素直な気持ちを書いて。タイトルをどうしようかと考えた時に、“変わらぬ心”とか“途絶えぬ記憶”とか、そういうスターチスの花言葉を見たんです。それにぴったりだなと思って。僕は忘れずにこの歌を歌っていこうって、自分自身にも言い聞かせるように、このタイトルと歌詞にしました。
結生 最初の方にできた曲ではあるんですけど、曲の行き場がわからず、ちょっと路頭に迷っていたんですよ。で、ガラがぽつんとそういう歌詞を書きたいって話してくれて。それならこの曲かなっていうことで進めていったんです。アレンジやピアノのプログラミングはCreature CreatureのShinobuくんに手伝ってもらって。いい経験になりました。
──次は「マチコの夢」。
結生 これまた180度変わって(笑)。ラテン調のリズムで流れるんですけど、最初はずっと8ビートの曲だったんです。それをラテン調にしたら面白くなるかなとやってみたらうまくはまって。新しい感じになりました。
ガラ ラテン調の感じになったことにより、歌詞のイメージが降ってきて。ライヴ中に自分が主人公になれるような歌詞を書こうと思ったんです。演じられるような。
──こういう女性目線の歌詞は今までもありましたが、それまでの集大成になるような歌詞ですね。このマチコは、“平日の女”(2016年シングル)かもしれない。
ガラ もしかしたらそうですね(笑)。いろんな人生の中で投げやりになることも腐ることもあるんだけど、結局生きているし、生きていくためには何かしなきゃいけない。生きていくために頑張る人の人生が書けたらいいなと思いました。気だるさを残しながら。
──ベースのメロディも印象的ですね。

テツ これは難しかったですね。もっとアゲアゲのラテン調の曲はありますけど、このリズムパターンはなかったので、レコーディングでも苦労しました。
ネロ 一応正解は叩けているのかもしれないですけど、本格的なラテンって奥深いじゃないですか。僕はまだまだ勉強中です。
──インスト曲「-node-」は、ちょうどA面B面の転換地点のような。
結生 まさにそのイメージです。今回頭にSEをもってこなかったので、ど真ん中にこの曲と置いて。あとはライヴのSEとしても使えるようにしたかったんです。
──「「次はお前の番だ」」はテツさん作曲。
テツ アルバムの曲がほぼ出揃った時に、あとどういう曲が入るともっとアルバムがよくなるかな?と考えて出した曲です。たぶん自分にしか作れない、自分のもっているリズム感をメンバーが広げてくれた曲で。デモでは過去のガラさんが叫んでるような感じを引っ張ってきて貼ったりしていたんですけど、それはまったく採用されず、ガラさんが新しいものを入れてきてくれて。
ガラ 曲を聴いたら金属感があったんですよ。冷たいんだけど、芯はしっかり硬い、みたいな、それってテツさんそのものですよね。一見クールで冷たそうに見えるんですけど……実はサイコパス、みたいな。
テツ 芯はしっかり硬い、じゃないんだ(笑)。
ガラ そう(笑)。テツさんがニヤって笑って『次はお前の番だ』って言ってる感じがする。
──そして「Glitter Glitter Glitter」なんですが、知ってるメリーのはずなのに、なんだか違う感じがする。ひょっとしてメリーのニセモノさんが弾いてるのかな?と思わされるような違和感が面白かったんです。
結生 なるほど、そうかもしれないです。めちゃくちゃメリーっぽいんだけど、いつもと違う感じ。ギターで言うと、最近歌ものの曲ではシングルコイルのストラトキャスターを使っているんですけど、激しめのこの曲でも使っているんです。カッティング重視でエッジが立っていて、ありそうでなかったから、そういうニセモノ要素があるのかもしれない(笑)。
ガラ これも曲から歌詞が引っ張られたんですけど、ちょっとオールディーズな感じがあって、昔のネオン管がギラギラしているようなパブみたいなところでバンドが演奏していて、男女がお酒を呑んでいて。そういう絵が最初に浮かんできたんです。この曲もライヴでの成長が楽しみな曲です。
──「In this world」はネロさん作曲。
ネロ この曲はだいぶ昔の曲を作り直したんですけど、原型はほぼないです。激しい曲じゃない曲を作りたくなって、16ビートで隙間を空けたような感じで作ってみたら、宇宙っぽくなりました。
──このイントロから、サビの歌謡曲テイストへ展開する感じは想像つきませんでした。
ネロ そこはちょっとこだわったところです。変なキメっていうところにも命をかけたので。
ガラ この歌詞はだいぶ難産でしたね。ネロもたぶん自分の中で着地点をどうしようか悩んでいたんだと思うんですよ。最後にメロが固まってから書いていって。ネロがいろいろもんでいた分、俺にも考える時間ができて、Aメロに英詞を入れたり、そういう遊び心を入れられました。
結生 イントロのノリとか、このテンポ感っていうのはメリーには少ないので、新しいところを切り拓いたな、やるなネロ、と思いました。次の「来来世世」もありそうでなかったメリーの曲だと思うんですよ。この曲も初期段階で出ていた曲で、自分の頭の中に見えているものをどうにか具現化したいと思っていたんですけど、最初の方はここまで完成されなくて。サビも何度も変わったりして、アレンジに一番時間がかかりました。でも、仕上がりとしてはすごい満足しています。
ガラ これも僕が思い描いている“生と死”を書きたいと思ったんです。“生まれて死んでいく”ということはキーワードで入れたくて、それを暗くならずにキャッチーに聴かせたいなというのがあって。その中に“次の来世も、そのまた次の来世も一緒にいましょう”って、ちょっとした不気味さがじわっとくるような。
──それをロマンチックと捉えるのか、怖いと捉えるのか。この曲に至るまでの混沌とした部分を“神様お願い”ですべて収めることができるんだ、という面白さもありました。
ガラ ああ、結局は神頼みか!って(笑)。
──ラストに「The Last Scene」。

結生 これは自分の中では“ザ・王道”ですね。この曲は、メロディに対しての歌詞の部分について、一番やり取りしたかもしれないです。サビの歌詞のはまり具合とか、言葉の選び方で同じメロディなのに違って聴こえたり。そういうところに一番時間をかけました。
ネロ 僕が好きなところは、メジャーコードっぽく聴こえるのに切ないところです。
ガラ 僕の思いはこの歌詞の中に全部込められているので、ライヴでそれを少しでも受け取ってもらえたらなと思いますね。永遠なんてないから、今を生きてくれ。それしか言ってません。たぶんそれが一番言いたかったことです。みんな後悔しないで生きてほしいなと思います。
──今作を引っ提げたツアーがすでにスタートしています。意気込みを聞かせてください。
結生 札幌や福岡、四国も入っていて、この規模感での全国ツアーは本当に久しぶりなんです。この『The Last Scene』というアルバムを、このツアーでどこまで突き詰められるか、そこまで成長できるかが今後のメリーの課題だと思うので、ぜひついてきてほしいです。
ネロ アルバムはCDができたことが完成ではなくて、ツアーを観にきてくれた人たちと、またイチから作品を作っていくような状態になると思うので、まずはこのアルバムをたくさん聴いてから、僕たちと新しい物語を作りに来てください。
テツ このアルバムはちょっと悲しい気持ちになったり、人生に迷ったり、そういう人たちに寄り添ってくれるアルバムになっていると思うんです。我々はこのアルバムの世界観を伝えるためにツアーを回るので、いろんな気持ちをもって1本でも多く観てほしいです。
ガラ 久々の全国ツアーということもあるんですが、そんなに力まず、自分たちの今の思いを、このアルバムに込めた思いを、しっかりと確実にみなさんに届けられたらいいなと思います。本当に永遠というものはないので、いつかメリーのライヴに行ってみよう、じゃなくて、“今”足を運んでください。僕らもみなさんのところに会いに行くので、近くに行った際はメリーに会いに来てください。後悔なく生きましょう。
当インタビューは2025年3月に本誌公開されたものです。
Writer:早川 洋介 / Photographer:小松 陽介