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【Vol.7本誌巻頭特集】有村竜太朗スペシャルインタビュー

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ソロ・アーティストとして新たなフェイズに入った有村竜太朗(vo&gt/Plastic Tree)の現在地


竜太朗:久しぶりなんですよね、楽曲を形にしたのが。Plastic Treeのほうでは新曲を出していましたが、ソロとしては3年とか、4年ぶりとかになるのかな。ここ数年は楽曲をゼロから作っていくという気持ちに、あまりなれなかったんです。それは、ソロでずっと活動を共にしていたギターのhiro(te’)が2021年に亡くなってしまったからというのもありましたね、制作活動は。停滞しているような時期がずっと続いた後、ライブ活動が今のバンドのメンバーで固まって、自分の中でそろそろ新しいものを作なきゃ、という気持ちになったんです。

竜太朗:そう。ソロの良いところはライフワーク的にやっていて、特に契約があって、いついつまでにリリースしないといけない…みたいなことがないんですよ。だから、自分のペースで活動してて。それに、バンドでは曲を作って、音源を作って、リリースして、ライブをして…というサイクルになるけど、ソロはそれにあまりこだわらなくてもいいかなと思っているんです。なので、「春光呪文 / shunkōjumon」は去年の春くらいにできた曲ですけど、それを採用するか、しないかも含めて、先にライブで演奏することにしました。「春光呪文 / shunkōjumon」ともう1曲新しく作った曲2曲を去年のツアーに入れて演奏して、曲として成立してきているなと思うようになり。で、春は自分の誕生日の時期ということで、2025年もまたツアーをやるよねという話をスタッフとしていて、それに合わせてリリースをしたほうが僕らも嬉しいし、ファンも喜んでくれるかなと思って、「春光呪文 / shunkōjumon」をリリースすることにしました。

竜太朗:そうですよね。そういう流れで来て、新しいシングルは僕のソロの何期になるのか分からないけど、3期くらいに入るのかなという感覚があった。そのスタートが自分の誕生日というのも良いなと思ったし、ちょっと決意表明的なものというか、今どきの言葉で言うと、また新しいフェイズに入ったものを提示できるかなと思ったんです。「春光呪文 / shunkōjumon」は、そういう意味合いを込めて作った曲です。

竜太朗:僕はいつもギターを弾きながら曲を作るんですけど、この曲に関してはメロディー先行でした。メロディーが浮かんだから急いでメモって、後からギターでメモ程度にコードを拾って。ただ、楽曲的に鍵盤をメインにしたかったので、マニュピレーターの方に「この曲はピアノをメインにしたいから」と言って、弾いてもらって…という感じでした。

竜太朗:それもありますけど、そういう曲にしたかったというのもありました。意味合い的には、大きくいえば“お別れ”ということですよね。誰しもがおそらく感じる、春ちょっと前のせつなさみたいなものを表現したかったんです。曲を作る段階では自分の感情や思いがめちゃめちゃ入っていますけど、作ってしまったら、なるべくいろんな人に共感を得てもらえたら嬉しいなというのがあって、この曲がそういうものになっていると良いなと思います。

竜太朗:ありがとうございます。歌詞はね、かかりましたね、時間が(笑)。

竜太朗:歌詞は異常に練り込みます。他の人と比べたことがないから分からないけど、自分の中では1番かかります。

竜太朗:そう言っていただけると報われます。言葉というのは可能性だらけだから、俺の場合は量を書くしかないんですよ。もう書き直して、書き直して、書き直して…ということを繰り返す。結局いき着く言葉は大体同じなんですけど、そこに直行できないんですよ。可能性を探してしまうんですよね。言葉と言葉のつなぎ方で随分価値も変わるし。

竜太朗:曲のカラーとして、そんなに張った声で引っ張る曲ではないというのがあって。それは自分の曲では珍しいことで、メロ先だったからかなと思いますね。ギターだとサビでちょっと声を張ったり、力を入れて歌ったりするようなものを作りがちだけど、これは本当に車を運転している時に浮かんだ曲なので、いつもと違っていたんです。

竜太朗:多いです。「春光呪文 / shunkōjumon」の時も“あれ? ヤバい、ヤバい……”という(笑)。ハザードを焚いて、車を脇に寄せて止めて、メロディーを録音しました(笑)。

竜太朗:そうですね。メロとピアノ……僕はピアノはそんなに弾けないけど、頭の中で音は鳴るじゃないですか。なので、入口の段階でわりとしっかりしたイメージはあったと思います。この曲の特色としては1年かけて作った曲ということで、最初に一応人前で演奏できるところまで作って、バンドで作り込んで、ライブで演奏して…という流れだったんですね。結構ワガママなことをさせてもらったなと思うけど、その後ちょこっと寝かせて、レコーディングをする前にバンドで作ったものを元に、もう1人くらいアレンジャーを入れたいと思ったんです。それで、cinema staffの三島(想平/b)くんに、アレンジをお願いしました。三島くんは僕の友人で、僕は彼の作る曲がすごく好きだし、僕のソロを手伝ってもらっているリズム隊はcinema staffにすごくお世話になっているんですよ。三島くんがこの曲を聴いたら、どんなアドバイスをくれるんだろうなと思って、アドバイスを聞きたいな…くらいの気持ちで送ったら「必要であれば、手を貸しますよ」という返事がきたので、「じゃあ、アレンジャーとして入ってほしい」と言って。それで、アレンジしてもらって、さらにレコーディングの当日に、「ちょっと待って。このピアノはボイシングを変えないと明る過ぎちゃうな」という話になったんです。

竜太朗:当日です。リズムを録る時にそういう話が出て、“おおお……”となったけど、そこに気づいちゃったから“そうか”と思って。この曲はピアノがメインだから、ピアノの在り方によって大きく変わってしまうんですよ。それで、リズム隊とかギターのアプローチは変えずに、メロディー楽器としての鍵盤を変えなきゃね…ということになった。特に、頭のところ。それを、SYUTO君(鍵盤)とずっと考えました。カーペンターズみたいなのはどうだ、ビートルズみたいなのはどうだ、こういうイメージはどうだ、ああいうイメージはどうだ…というふうにいろいろ考えて、最終的に今の形にたどり着いたんです。

竜太朗:その辺りは、メンバーにもすごく恵まれましたね。「春光呪文 / shunkōjumon」は、自分でもまたこういう曲が作れると思っていなかったので、作れたということは、まだ作る力があるのかと思って、次作もいろいろ考えなきゃな…という(笑)。作れると思っていなかったんですよね、心のどこかで。自分にとって、すごく大事な曲になったなと思います。

竜太朗:この曲は結構イレギュラーな成り立ちで、ソロでは今まで一応全曲自分で作ってきたんですけど、hiroくんがバンマスみたいな感じで、一緒に曲を作っているようなところがあったんです。僕が曲を作って持っていって、3分の1くらいスタジオで変わったこととかもあったし。そういう作り方をしながらも原曲は自分で作っていたけど、他のメンバーが曲を書いてきても良いよね…みたいな感じになっていたんです。なぜなら、もうバンドのようになっているから。「俺コードを弾くから、竜太朗ちょっとメロディーつけて歌ってみてよ」とか「これ前のバンドの曲なんだけど、メロディーつけ直して歌ってよ」みたいなことをhiroが言ってて。結局それは叶わなかったけど、よくそういうことがあったんです。で、新たにギターをlynch.の悠介くんにお願いした理由として、彼はすごくhiroくんのことをリスペクトしていたというのがあって。僕はその辺の話を悠介くんとして、それが悠介くんにお願いする1番大きな理由だと伝えました。

竜太朗:そう。hiroの話をしたからなのか、純粋な気持ちからなのかは分からないけど、ある日突然悠介くんが曲を作りましたと言ってきて、「えっ? 俺のソロ用の?」と聞いたら「はい。採用されるか、されないかは別として送っておきますね」と。そうしたら、もうほぼ完成形に近い完璧なデモが届いて、めっちゃカッコ良かったんですよ。メロディーはなかったので、「メロは?」と聞いたら「竜太朗さんに、お任せします」ということで、その気持ちも嬉しかった。全部自分で煮詰めたものをやっていくだけというのはもうこれ以上やる意味があまりないのかなという気持ちがあって、新しい血を入れていくことも大事だなと思っていたんです。でも、新しい血といっても最初はメンバーのものが良かったので、悠介くんが作ってくれた曲というのが嬉しかった。それで、上手く言えないけど、2人で新たに面白いことを起こすみたいなイメージがあって、「共犯遊戯」というタイトルにしました。

竜太朗:僕は翳っている人間なので(笑)。

竜太朗:最近は、めっちゃ悠介くんと飲みにいっているんですけど、曲のこととかを話す中で、悠介くんはロマンチックさということは言っていました。この曲の竜太朗さんには、そういうイメージがあるんですよねと。それで、たしかに独特の甘さというか、メランコリーさがある曲だよなあるよなと思って。そんなふうに、この曲はお互いの化学反応的な感じで作ったので、「春光呪文 / shunkōjumon」とはまた違っていて楽しかったです。

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竜太朗:そのことで分かってもらいたいのはPlastic Treeに不満とかは一切なくて、ずっと楽しくやらせてもらっています(笑)。ソロを始めた最初の理由としては、自分が作った曲が結構溜まっていたんです。僕はバンドに曲を出して、引っ込めるのが1番早いというか。僕は基本的に’90年代の残党なので、“曲を作るのはバンドでスタジオが良くない?”派なんですよ(笑)。今は作曲者がDTMとかでしっかりしたデモを作るのが主流じゃないですか。そこまで自分で作り込んでいた時期もあったけど、あまり得意じゃなくて。だから、自分が上手くイメージを伝えられないなと思うと引っ込めてしまうことが多いんです。

竜太朗:そうなんですけど、強く押せない。そういう中でパソコンを開いたら、ボツ曲みたいなのがいっぱいあったんです。それを聴いてみたら、いなたいけど、今だったらいろいろ浮かびそうだなと思って。そういう曲が沢山あったのと、僕はギタリストとしてhiroが大好きで、どうしても一緒に音楽をやりたいけど、お互いにバンドをやっているからコピーバンドでもやるかということになったんです。本当に遊びのバンドだったけど10年以上続けていて、hiroのギターで自分のなにかを表現したいという欲もあった。もしソロをやるなら絶対にhiroに弾いてほしいと言っていたし、彼もやりたいと言ってくれてて。自分1人では形にできなくても、hiroに手伝ってもらえたら作れる曲もあるだろうし、ソロをやるなら今なんじゃないかなと思ったんです。もちろんPlastic Treeのメンバーにも相談して、みんなが「やってみたら良いと思う」と後押ししてくれたので、2016年からソロを始めました。

竜太朗:僕はフォークが好きなので、アコギ1本で歌うというのもやってみたいなというのがあったんです。バンドのアンプラグドとかも好きですけど、バンドというのはメンバーが並び立っている姿が好きなので、そこは1番価値のあるものとして大事にしたい。ソロであればアコギ1本で歌っていたり、アコギとピアノだけで歌っていたり、編成が変わったりすること自体も楽しめんじゃないかなと思って。僕は元々10代の頃からアコースティックが好きだったので、自分が年齢を重ねた時にそういうものを追求できるようにしておきたいなという気持ちもありました。

竜太朗:ソロを始めたばかりの時は、自分のやりたいことを追求したいという気持ちが強かったと思うんですよ。もっとシューゲイザーをやれたはずだなとか、もっとオルタナな曲を作れたな、もっと訳のわからない暗い曲を作れたなという感じで。でも、ソロの1stアルバム(『個人作品集1996-2013「デも/demo」』2016年11月)で、追及したかったことはできてしまった。なので、1stで終っても良かったくらいだった気もするけど、楽しくなっちゃったんです。ソロのメンバーと音楽をやることもそうだし、追及することもそうだし。でも、Plastic Treeも楽しいんですよ。それで、両方やることにしました。

竜太朗:だいぶメンバーにも助けられましたけどね。ベースの鳥石(遼太/URARACA、ex.chouchou merged syrups.)くんとドラムの高垣(良介/ex.chouchou merged syrups.)くんはhiroが連れてきたメンバーで、全員hiroを介して知り合ったんです。だから、hiroが亡くなった時は全員相当ショックだった。けど、止めてしまったら、これまでやってきたことが無くなってしまうことになるなと思って。それくらい大きなものになっているんだなということに気づいて、悠介くんや(生熊)耕治(cune、BLUEVINE)くんといった、自分の中で理由がある人にギターを弾いてもらうようになりました。縁がある人となにかしら形を残すことが救いになるので。他にもTHE NOVEMBERSの小林(祐介)くんとか、People In The Boxの波多野(裕文)くんとか。そういう人と音楽をやって、どえらい刺激を受けて、それをPlastic Treeに返すこともできたんですよね。

竜太朗:そう言っていただけると嬉しいです。本当に、Plastic Treeのメンバーの理解もあってやれていることなので、みんなに感謝しているし。僕はソロをやるにしてもPlastic Treeを止めずに、やりたかったんです。それは正しい選択だったなと思います。

竜太朗:弾き語りは、若い頃からたまにやっていたんです。僕は高校生の頃くらいに、変なフォークが好きだったんですよ(笑)。高校3年くらいの時に1回バンドがない時期があって、バンドから離れたけど音楽欲はあるから東京にライブを観にいったろうと思って。それで、渋谷アピアにいったら、最後に血を噴き出して倒れる人とかがライブをしていた(笑)。いわゆるアングラ・フォークですよね。そういうのに惹かれて、よく観にいっていて、なんならちょっと恋心も抱いて(笑)。アー写が草むらで着物を着た、オカッパの女の子だったりするんですよ。そういうのに憧れる時期があって、それこそ没頭するように観ていて、自分も弾き語りをやりたいなと思ったんです。僕は血を吐いたりは、しませんけど(笑)。自分が好きな曲を弾き語りで歌ったりしていたんです。

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