永遠、そして破戎へ…
──その後、凛の第二章が終わってから30周年まで、期間が空いたと思うのですが。
『凛』の第二章が2016年3月に終わり、解散しました。その年の9月には、個人でもセッションのイベントだったり、KISAKI PROJECTで出て欲しいというオファーがあったりして…。
俺個人としてはもう動きがいろいろと始まっていました。無理にバンドを組むのではなくて、そういうやり方もありなんだなと思いましたね。バンド活動から身を引いてからは作曲依頼なども来るようになりましたね。実はそれがイヤだったりしたこともありますけど(笑)。
ただアイドル界では有名な椎名ひかりちゃんから曲を作って欲しいと作曲依頼をもらったんですが、そこで「KISAKI」の名前が活きるのであれば、こういう方法もアリだなって思うようになりました。ぴかりん(椎名ひかりの愛称)もPhantasmagoriaが好きだったみたいで、ライブで「神歌」を歌ってくれることもありました。
そこからアイドル界隈からの作曲依頼が増えたり、バンドに楽曲提供したり、裏方というかプロデュースをしていましたね。「KISAKI」の名前を使ってくれるのはありがたいし、たまに表に立ちつつ、楽曲提供するのは楽しかったので。
そんな中、コロナ禍が始まってしまったんですよね。そこで全ての活動が一旦断ち切られて、どうしようかと。その中で、さまざまなライブハウスでクラウドファンディングの話が出ていて。お世話になったライブハウスにはできるだけ応えたいと思い、「SAVE THE HOLIDAY」のプロジェクトにKISAKIソロ名義で新曲を提供させてもらいました。これが今回の30周年ソロプロジェクトのきっかけになったんですよね。
他にも「鹿鳴館伝説」や、大阪ミューズなどの系列のクラウドファンディングにも楽曲を提供したり…。コロナ禍の中でも俺らで力になれるところには協力しようと活動してきました。
その中で、俺は歌えないからボーカル誰に歌ってもらおうか…と考えて、MIRAGEのAKIRAに歌ってもらうことになったんだけど、レコーディングの時に「MIRAGEは2022年で結成25周年ですね」という話になって、それをきっかけにMIRAGE名義でのフルアルバムを作りました。期間限定ではあったけれど、東京と大阪で復活ライブをしたら思ったよりも盛り上がりました。
──アルバム、すごく良かったです。
MIRAGEはミニアルバムはあったけれど、フルアルバムは出したことなかったんですよ。ベストアルバムはあったけどね。だから新曲を含めたフルアルバムをリリースしよう、というのと、第三期に入ることになったのでミュージックビデオもしっかり撮影しました。
──バンドを辞めてもKISAKIさんが居なくなる訳ではなくて、今まで蒔いてきた種というか広がった人達がKISAKIさんを求めているように感じますね。
蒔いた種から花が咲く。その花が枯れても(また種から)もう一回花が咲いてきた感じかな。今まで続いている人達は出会うべくして出会ったというか、何かしら共通項があって、離れてもまた戻ってきたり、大人になってあの時はお互い子供やったなって笑い合える日がきたり…それが今なのかな、と。
──KISAKIさんという受け皿があったから、戻ってきたい人が戻ってこられた面もあるんじゃないでしょうか。
そうだったら嬉しいですね。俺の30周年ライブに出てくれた、ネガやMIRAGEのメンバーもそう思ってくれていたら嬉しいな、と思います。今回30周年を迎えるにあたって、自分の中でミッションを作ったんです。30周年を終えて、今後年を重ねていくにあたって、どういう風になっていくのかは分からないけれど、自分がヴィジュアル系でやってきた証を形として残したいという思いがすごくあって。
その中で、自分が憧れた人の空気感・緊張感を感じることで自分を再奮起させるためにどうしてもYOSHIKIさんに会いたかったんです。
YOSHIKIさんが常にアクティブにさまざまな活動をしているのを見て、「俺はこの人のおかげで頑張れているんだ」っていうのがあって。ミーハーな気持ちもあったけれど完璧なモードの時のYOSHIKIさんと1枚写真を撮ってどうしても残したい、と思った。言い訳して自分のミッションを投げ出さないために。
文面だけみたら本当にミーハーな感じですけどね。世界のYOSHIKIさんなので、現実はなかなか難しい中でいろいろな人に相談して、LADIES ROOMのGEORGEさんに無理を承知で電話をしました。
しばかれるのも覚悟して(笑)。
GEORGEさんは熱い方なので俺の思いを理解してくれて、「作戦考えるわ」と。それでGEORGEさんの与えてくれた縁で奇跡が起きたんです。
YOSHIKIさんと2ショット写真を撮って、お話もさせてもらって。ステージを拝見させてもらって、裏方での姿も見ることができて…。限界まで自分を追い込んで奮い立たせているんだな、と感じました。
そこから制作モードに一気に火がついた感じですね。30周年は自分でいろいろなアイデアを出してやってみようと。
──自己プロデュースですか?
再プロデュースって感じかな。今までの活動におごることなく、今まで出会ってきて影響を受けたアーティスト達と一緒に、ソロアルバムを作ろうと。THE LOCUSという形で第一弾のライブが東京で今年の1月にあって。
それを終えて、レコーディング期間を設けて、4月・5月・6月の3ヶ月、音楽活動30周年・30曲リリースという自分なりの挑戦をしました。
──それだけの曲数、気が狂いそうになりませんでしたか?
なりましたよ、ぶっちゃけ(笑)。ただいろいろなアーティストにこの曲を歌って欲しい、30周年に歌って欲しいと思って。
みんな自分達のバンドの活動がある中で、快く返事をしてくれたのは嬉しかったですね。今も全然その火は消えていないし、30年やってきたことが無駄ではなかった、と今実感している最中ですね。
11月5日の大阪でのライブも終わって、自分の中でのけじめもつけることができる良いライブができました。これもいろいろな方に取材していただいたり、協力していただいたのも大きいと思っています。
──確かに11月のライブでは観客全員が声を出すことができましたし、ヘドバンなど思いっきり楽しめたライブだったと思います。ヴィジュアル系らしいライブが帰ってきましたよね。
やっぱりコロナ禍以降はライブハウス離れしているという話もよく聞いていました。今回のイベントは開始時間が早かったですが、あれだけ観客が入って、最後の「神歌」の大セッションでも思いっきり楽しんでくれていたのは嬉しかったです。
──まだ30周年は終わりませんよね?
12月に最後のリリース+αがあります。30周年のファイナルを飾る2023年12月31日には、自分自身のけじめとしても、自分が思い描いてきたヴィジュアル系の美しさを表現した映像を配信します。映画のエンドロールのような映像、それを配信することで30周年は完結…というところまで、走り続けようと考えています。
3分程の映像で、ほとんどがSE構成になっているんですが、映像・歌詞で俺なりのメッセージ性を込めてあります。
俺の世界観が美しく構築されている映像になっていますよ。
今(11/10時点)はまだ編集中なんですけれど、納得いくまで最高の作品に仕上げて、30周年を完結することができたら、また自分の中で新しいものが見えてくるのかな、と思っています。
──12月27日にリリースされるタイトルを、教えていただけますか?
タイトルなんやったかな(笑)…、——『Eternally(エターナリー)』。永遠という意味もあるけど。
3部作を作っている中でたくさんの曲を作ったんだけど、収まりきらなかった曲の中にどうしても、リリースしたい曲が5曲くらいあって…。
なので、最後はミニアルバムという形です。これを出すにあたって、摩天楼オペラの苑くんやDEATHGAZE・DARRELLボーカルの藍くん、俺はパートナーと思ってるけどMIRAGEのAKIRA、THE SHEGLAPESの蟹江さんに歌ってもらいました。この1枚を最後に出して、自分をすべて出し切ろう、絞りカスも出ないくらい全部絞り出そうって(笑)。
──今回は、摩天楼オペラの苑さん、DEATHGAZE・DARRELLボーカルの藍さんに一言ずつコメントをいただいているので、ここで紹介させてもらいますね。
ー摩天楼オペラ 苑ー
前回はKISAKIさん作詞の曲で参加させてもらったのですが、今回は僕が作詞させてもらったこともあって、前回以上に僕の、曲への気持ち、切なさみたいな感情をのせられたかなと思いますね。前回好きだった方もさらにいい歌ができていると思うので、期待してください。
ーDEATHGAZE・DARRELL 藍ー
KISAKIさんが書いた曲がめちゃくちゃ良かったので、僕も頑張っちゃいましたね。作詞もさせてもらったんですけど、どう歌おうかなっていろいろ考えて試行錯誤しながら歌わせてもらいました。いい曲に仕上がっていると思うので、ぜひ聴いてください。
──全て絞り出したとしても、良い曲というか、みんなの心に残る曲を作りたい、という気持ちはまだありますか?
もちろんありますよ。それが今評価されなくても。今回3部作はある程度みんなに聴いてもらっているけど、何十年後かに再評価されるかもしれないし。やっぱり人生って何があるか分からない。
東京と大阪のライブでPhantasmagoriaや凛の曲を演奏して、すごく盛り上がるだけじゃなくて、当時のフリをそのまま再現してくれた。もう、15年くらい前のバンドの曲を今でも色褪せず、みんなやってくれているのは、それはもう嬉しいよね。
いろいろなバンドの人達も11月のライブを見に来てくれて、「久しぶりに聴くことができて感動した」と言ってくれた人も多かった。そういうことが、自分のやってきたことへの自信にも繋がりますね。
「いつまでヴィジュアル系やってんだ!」「ヴィジュアル系でしか生きられない男」って言われたこともありましたけどね(笑)。
俺は確かにヴィジュアル系の格好とかスタイルも好きやけど、ヴィジュアル系バンドの音楽に魅了された、誰よりもヴィジュアル系好きだと思ってる。だから今でも現役で活動しているバンドのチェックはしています。
俺が先頭を切って、派手で大きなイベントをやりたいってなった時に、力を貸してくれる仲間がいるってことが、俺が30年やってきた証だし、みんなを楽しませることができたという結果に繋がったと思う。
この創刊号で俺が表紙を飾れるのも、30年やってなかったら出来なかったと思うし。この記事を読んだ方は永久保存版として残しておいて、何年か経ってもまた読んで欲しいと思いますね。
──KISAKIさんはまだ今後どうするか分からない、とのことですが、僕も含めファンとしては寂しい気持ちもあります。
ライブを観た人、12月リリースのミニアルバムを聴いた人、最後に出す映像を観た人、さまざまな媒体で最後の姿を見た人、いろいろな人の意見が欲しいな、と思う。感想であったり。
バンドってバンドメンバーだけじゃなくて、応援してくれる人がいて、支えてくれるスタッフとか関係者がいて成り立っていると思う。1月、11月のライブでは、改めてそう感じました。
僕も30年やってきたけど、今でも残っている、頑張っているアーティストは、人と違うスケールの大きさだったり個性だったりを持っていると思うし、自分の誇れる仲間ですね。そういう仲間と30年間頑張ってやってこれたことは、普通の人は経験できないことだと思うし、好きなことを仕事にしている人は美しいと思う。
どんな人生も人それぞれだけど、俺はKISAKIとして唯一無二の人生を送ってこれた。今まで俺を支えてくれた人達に伝えたいのは、もし今後何かがある時、またステージに帰ってくることがあるかもしれないし、引退って言葉は使わない。
──引退って言葉は使わない、かっこいいですね。
Phantasmagoriaの時に一度引退って言ってるけどね。俺は結構引退詐欺って言われることが多くて(笑)。誹謗中傷とかバッシングを受けてきたりもしたし。
でも引退して復活してるアーティストだったりスポーツ選手はいっぱいいる。だから俺の気持ちを理解してくれる人がいたらそれで良いし、やる時はきっちりやる。30周年も終わりに差し掛かっていて、良い形で終われているので満足しています。
11月のライブはあの場で臨場感を味わえた人には一生忘れられないライブになったのではと思いますね。あの日の映像は残してあるので、いつの日か見せられる時が来るのではないかな、というか見せられるように動いています。
──まだまだファンの方に届けられるものがあるということですね。
そうですね。今年のライブはすべて映像に残してあるんですよ。
それを見せられることがあるかは分からないけれど、いままで撮らずに後悔するライブも多かったので。今年のライブは3本全て撮影を入れて。
THE LOCUS(東京編・大阪編)、KISAKI PROJECT feat.樹威の16年ぶりのライブを、3本とも映像に残してあるので、何かの形で見てもらえる機会があれば。
──最後にシングルも発売されるんですよね?タイトルが『破戒』ですか。
『破戒』は俺が感じた「衝動」とヴィジュアル系に対しての「毒」をストレートに表現しました。
『Eternally』は綿密に構築された美くて激しいサウンド、すごい音源だと思っています。その俺がやってきた憧れた音楽性はすべてぶっ壊して、俺がヴィジュアル系を始めた頃に感じた初期衝動を曲にした感じですかね。
『Eternally』とは系統が違うので、入れるのは避けたかったんですよ。
──すごく楽しみです。最後の最後が一番KISAKIさんらしい曲になるのかもしれないですね。
「Eternally」っていう綺麗なワードがあって、それを破戒(壊)するみたいな。バンドとかも全部そうだけど、創っては壊して、もう一度イチから作り直して…。創造と破戒(壊)の繰り返しですね。これで言いたいことは言い切ったかな(笑)。あとはヴィジュアル系シーンがもっともっと盛り上がってくれることを願います。
Writer:廣瀬 大輔 / Photographer:春川 眞 尾藤 能暢 / Makeup Artist:A.DO / Hair maintenance:hiko(UNDIVIDE) / 衣装:ID JAPAN
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