内に潜む『EVIL-悪意-』を紐解く——
2023年12月13日に摩天楼オペラの新譜EP『EVIL』が発売された。 今作は人間の内面にある邪悪な感情「悪意」や「嫉妬」、「復讐」などに焦点をあてた作品となっている。今回は収録曲をメンバー全員に解説してもらった。2024年1月13日(土)・14日(日)、2024年2月12日(月・祝)にはEVIL TOURも開催される。これを読んで『EVIL』をより深く堪能してほしい。
──今作『EVIL』はどのような作品なのでしょうか。
苑:前回作った作品は、メロディーを主体にした、聴かせるタイプの楽曲が多かったんですよね。最近はコロナが落ちつきはじめて、お客さんがやっとライブで声を出せるようになって。だから今回はライブでの盛り上がりを考えて、激しい曲を中心に構成しました。僕たちはどす黒いテーマ曲ってあまり作ってこなかったんですが、激しい作品を作るにあたって、こういう重い題材にも挑戦してみたいっていう思いから、『EVIL』が生まれました。
「EVIL」
──ここからは各楽曲について語っていただきます。1曲目は今回のEPのタイトルでもある『EVIL』ですね。
苑:そうですね。いきなり激しい曲から始まった方が、なんか『EVIL』っぽいなと思って。
最近は綺麗に歌うことが多かったんですけど、今回は久しぶりにシャウトしたり、力強い歌い方を取り入れた楽曲が多いです。『EVIL』もその中の1つで、最近の曲の中では特に攻撃的な歌い方をしているので、そこに注目してほしいなと思います。
優介:前作はメインリフと呼べるものが少なかったから、今回はリフを重視して攻めることをテーマにしました。それが1発目に明確に出せてるんで、そこをまず聞いてみてほしいですね。
ギターソロも、違ったアプローチで、怪しい音階を使ってみたりとか、いろいろ挑戦しているから、なかなか新鮮な作品になったんじゃないかなと思います。
彩雨:今回は、神聖というよりは悪がテーマなんですよね。
その中で、最初の曲、特に最初の部分でリスナーにどのように印象づけるかに重点を置いてます。
クワイアをどのように取り入れるかは、最初の曲、特に最初の部分でリスナーにどのように印象づけるかに重点を置いています。例えば、低音だけを入れるとか、邪悪さを演出するための工夫をしてますけど、基本的には、ストリングスとクワイアを使用するアプローチは変えていないけど、この曲の世界観に合わせて取捨選択してます。
燿:僕はバンドの各パートが何をしようとしているのかって考えながら作ることをすごく大切にしてて。曲によっては違うんですけど、例えばAメロとかで、他のどのパートと合わせるか、みたいなことは、結構綿密に考えて全体をアレンジしたので、聴いてくれる人には「あ、これここ狙ってるな」っていうのを感じてもらえたら嬉しいですね。
響:ツーバスがとにかく速くて、多分、今までの摩天楼オペラの曲の中で、この16分連打を長時間っていう意味では1番速い曲なんじゃないかな。今までになかったテンポ感のツーバス連打が出てきて、初期のXみたいな感じですね。ラストのサビ前にもめちゃくちゃフィルが詰まってるから、そういう速さと、手数・足数の多さっていうところが、この曲の聞きどころかなと思います。
「舌」
──2曲目はシャッフルだったりとか、ジャズっぽい印象など、構成の華やかさを感じる曲ですね。
優介:こういうシャッフル系のロックチューンはJanne Da Arcさんであったり、Acid Black Cherryさんであったりとかがやっていたのを見て、これを完全にメタルにしたらいいんじゃないかなっていうのを長年思っていたんです。もちろんシャッフルビートの中だとジャズっぽいアプローチとかも映えてくるんですけど、この曲が他のそういうシャッフル系のビジュアル系バンドの曲と違うのは、曲の中間にリズムチェンジ、テンポチェンジによるビートダウンが入る部分だと思います。そして歌詞の部分で話も出ると思うんですけど、なんかちょっと妖艶な曲になったなと。ビジュアル系バンドがシャッフルやると必ずそっち寄りには行くと思うんですけど、自分の想定していたというか、解釈の相違がない歌詞が仕上がってきたので、さすがというとこですかね。
苑:この曲は、優介が考えてきたメロディ通りに歌ったんですけど、めちゃくちゃ難しくて。僕だったらメロディの動き方はこういくっていうのが、やっぱり人それぞれ作曲者によって違うところがあって。でも僕も好きな曲調だし艶っぽく歌うのは得意なので、とにかく艶っぽさを意識していました。
優介:ギターの音色について、空間に広がりを出すリバーブとかディレイとかが深くかかっているシーンがこの曲では目立ってるかなと思うし、例えば1番のBメロのジャズっぽいところであったりとかで、一気に空間が広がるシーンとかがあるんで、そういうところをぜひ、スピーカーで大きい音であったりとか、イヤホンなんかで体感してもらえるといいかなと思います。かなり新しい音色は試してます、この曲の中で。
彩雨:このシャッフルビートの曲は僕もすごい好きなんですけど、キーボードの入れ方を間違えると違う方向のアレンジになっちゃうので、そこだけは気を付けましたね、シャッフル感を出さずにシャッフル感を出すにはどうしたらいいかっていう。シャッフル感を出してしまうと多分イメージと違う楽曲になっていくので、その辺はかなり意識しました。基本的にクワイアとストリングスっていうところがメインではありますが、この曲はその他のシンセの音もちょくちょくと入れてます。やっぱりその方が煌びやかですし。
優介:ゴシック感を出したかったので、チェンバロは絶対入れてください、と。MALICE MIZERであったりとか、Moi dix Moisであったりとか、ちょっとManaさんイズムを出したかった、そんなイメージがありましたね。
燿:この曲はほぼデモ通りに、あと他の曲に比べて圧倒的に緻密に弾いたんですけど、聴いてみたらこのテンポのシャッフルっていうのがすごい難しくて。シャッフル感はもちろん出すんですけどはねすぎない、みたいな、ところを意識していたので、そういうグルーヴ的なところがレコーディングは大変でしたね。
──こういう曲の雰囲気が違うものに関して、音の作り方を変えたりはしますか?
燿:LINE録音なので、レコーディング時は何か細かく音作りをするわけではなく、その後エンジニアさんと相談して、細かな音作りをしていますね。
響:この曲はデモの完成度が高くて、アレンジしなくても全然これでいけるぐらいの感じでした。ただ僕の手癖やセッティングとかがあるので、まずはデモ通り叩いてみて、自分のいつものスタイルとの違いや叩きにくい部分を見つけて、それを修正していった感じですね。例えば、サビでずっとバスドラムを踏んでいた部分を、試しに踏まないでプレイしてみたりとか。どちらのスタイルも合うと思うのですが、メタル、そして摩天楼オペラっぽいっていう意味で踏んでいるんですけどね。ブレイクダウンの部分やテンポチェンジのところは、以前から同じようなプレイをしていたので、こういうのは得意技というか。結局のところ、デモのアイデアに僕の手ぐせが加わった形で仕上がっていますね。
──歌詞を書くのは大変じゃなかったですか。
苑:全然、すんなりと出てきて。あの曲がやらしかったんで、そのまんま(笑)。
そうですね、そのままやらしい歌詞を(笑)。
「誰も知らない天使」
優介:僕が作曲のものが続いているんですが、この曲はギター的なテーマから発信していて、付点8分のディレイを使うフレーズを使って、今までにない曲調にできたらいいかなって思って作り始めたものです。あとはコロナ禍が落ち着いてきて、ライブで盛り上がれるようになってきたので、そういう点も考えてました。(作曲上で意識したのは、一聴して、ライブのノリだったりとかが、かなりわかりやすい曲調にしたことですね。ここはなんか折りたたみそうだなとか、拳を上げたくなるな、みたいな。 そのわかりやすい曲調でアゲアゲ系のままでいくと、歌詞もなんか元気な感じでアッパー調子になりそうなところを基本、全部下げ調子で(笑)。サビとかも下り、下り、下りの連続なんで。そうすると、熱血というよりクールな感じの曲になるかなという。あの、ハモリの付け方とかも結構特殊で、高みのある和音はあえて使わなかったっていうところがあったり…。なんかそんなに摩天楼オペラらしくない曲になったと思ったんですけど、アレンジをメンバーと詰めていくに従って、もう絶対、摩天楼オペラになるだろうっていう(笑)、期待も実験的な意味も込みになった、そんな曲になったかなと思います。)
苑:結構クールな印象があったんで、ボーカルも、めちゃくちゃ熱い感じっていうよりは、ビジュアル系の要素を強く出して歌ってますね。
──この『誰も知らない天使』というタイトル、このテーマで書こうって思ったのは何かあったんですか。
苑:世界から抑圧されてる中で主人公がもがいている歌詞なんですけど、これを書いてくうちに、「天使の奇跡」っていうワードが出てきたので、その後にタイトルを考えました。ただただ、抑圧されて、もがいて、もがいてどうにもならないっていう諦めまでいくんですよね。なんていうか…中2感の強いものを感じたんで(笑)、抽象的に書くのがいいんだろうなと思って。リアルなことを細かく書いていくっていうよりは、抽象的なことを書いていった方が曲に合うだろうなと。
最初の頃は、子供の頃とか。この空を見上げて、まだ少し希望があるんですよね。なんとかしたい…と。最終的には将来は何か別の景色が見えてるはずだ、みたいな。だけど、結局そんなものはなくて、どんな奇跡も起きる人生じゃないんだっていう。そうして下りに下って終わる。
今回のEPのコンセプトにも繋がるんですけど、いつも救いを求めてしまうんですけど、最終的には物語の中でこの曲はコンセプト通り、救いのないっていう。
──作曲者の意図みたいなもので、「この歌詞はこういう風になんか書いてほしい」というのはあったりするんですか。
苑:そうですね、全曲…そういうのはないですね。
優介:筋違いのものは絶対飛んでこないと。 下に向かっているものに対してこう、夢、希望みたいな感じのものは(笑)。この曲は希望や情熱というよりも、ただただ諦観がテーマとしてある程度来るだろうな、と。
そんなにプラス思考の語句は入らないんだろうなって思いながら、メロディを書いてましたね。メロディを書いてる時に結構脳内で響いてたのがあって、B’zの『IT’S SHOWTIME!!』っていう曲…、 あれも下がり調子なサビなんですけど、結構熱いというか。あれは小学生の頃に聴いていたのかな…。
苑:なんかあの…B’zのハードロックの熱い感じは受けなかったんだよね、あのデモからは。
優介:まあ、そうですよね、やっぱり。
苑:イントロのギターフレーズからは、クールなV系っていう感じがしてた。
優介:B’zっぽいというか、ハードロックのやり口というか。ラストサビの末尾にロングトーンのギターソロが一瞬入るんですよ。あれはちょっとB’z魂が…(笑)。
苑:それ思ったわ。懐かしのアプローチだ、って(笑)。
優介:それは多分、頭の中にB’zが若干鳴ってたから。
苑:よかった、よかった、最初に聞いておかなくて(笑)。寄れちゃうからね(笑)。
優介:自分の好きなアーティストさんの要素だったりが、上手い具合に消化されて、いろいろ閉じ込められた1曲になったかなと思います。その一端がそういうところって感じですかね。
今までにない感は多分1番強い楽曲だと思いますね。付点8分フレーズとかを駆使した楽曲がもうほぼ存在しないぐらいなんで。まぁ、そこは彩雨さんのシンセが入れば、摩天楼オペラに…。
彩雨:サビのところにピアノを入れてほしいっていうのは元々あった要望だったんですけど、その要望がなくても、多分あそこにピアノ入れたなって思いますね。なので、すんなりと曲のアレンジ自体はいけたんですけど、僕は結構、透明感ある曲だなっていう印象があって。
なんかぎゅっと詰まってるような感じの、激しくて速い曲というよりかは、隙間がいっぱいある、透明感ある楽曲だなと。自然とそういうのを意識したような感じのアレンジになったかなとは思いますね、ピアノも含めて。 そういうものが逆に詰まってる曲だと、ピアノを入れても出てこないんですよね。なので、ちょうどいいところだったなと思ってます。
──アレンジに関してですが、ずれたものは出てこないだろうっていうようなお話があったと思うんですけど、デモ曲に感じた、フィーリングみたいなもので各自アレンジしたものが出てくるっていう形なのでしょうか?
優介:僕は全パート分ガチガチに、脳内で浮かんだ限りのものは全部反映した状態で 渡すんですけど、彩雨さんに渡して、この曲で新鮮だったのは、1番最初のイントロ、ディレイフレーズ中の後ろの部分でキーボードリードが出てきたりだとか、あれはデモになかった要素だし、サビの中に細かいアルペジエーターのフレーズ入ってるじゃないですか。あれは全くデモになかった要素なんで。確かにそのフレーズを入れた方が本当に良くて、音源で聴くとうっすらとしか聴こえないですけど、高揚感を出すスパイスになってるって思いました。そういう自分にはあのデモ段階でなかった発想が聞こえてくると、なんかバンドの化学反応だなっていう感じがしていいですよね。
燿:この曲は「舌」と同様にサビ以外は、ほぼほぼデモ通りに弾いたんですけど、イントロのミュートをこのテンポで弾くのがめちゃくちゃ難しくて…。頑張ってやってたんですけど、演奏後に優介君に聞いたら「あれは絶対にやれってことでなかった」って(笑)。
優介:そうですね、どんなやり方があるんだろうなって思って。アクセント部分に、強打を部分部分で入れるっていう感じにしたんですけど、ミュートで切ってくださるとは思ってなかったというか…。すごく自分の想定通りだったというか。
燿:レコーディングだと、やっぱりもう全部聴こえるからさ、頑張っちゃうんだよね(笑)。
響:さっきの『舌』と一緒で、そもそも完成度が高く、ちゃんとしてるフレーズだったんで、プラス自分の手ぐせを入れたってぐらいなんですけど。
例えばイントロの後半、ツーバス連打してるところは、結構僕のすごいやりやすいテンポ感で、スネアドラムのゴーストノートがめちゃくちゃ入ってるんですね。基本的に僕は、割とデモ曲から変えるタイプのドラマーなんですけど、この曲はすごくいい状態で、きたというか。ドラマーじゃない人が作るフレーズって、手が3本ないとできないよ、ということもあったりするんですよね。なかなかいないタイプだなと。
優介:ドラムの打ち込み大好きだから(笑)。
響:それはほんとすごいと思います。
優介:響くんと一緒にスタジオ入ったり、ライブとかする上で、その手ぐせとかを自分のフィルアイデアみたいな感じでパクっているというか(笑)、サンプリングしているところもあるので(笑)。足って踏みっぱなしで、手元も16分で叩いてみたいなフィルってかっこいいんだなって彼が気づかせてくれたので…、その辺は大いに勉強になってますよね。ドラマ向けの教則というか、ドラムプレイスルー動画とか見て、手元からフレーズをパクるのとか、僕大好きなんで(笑)。
響:僕もいろいろな方のドラムプレイを参考にして、それを混ぜて自分のものにしていますね。