想像と違う世界線も繋がっていく——
11月13日には待望のNEW ALBUM「CROSS」をリリース、そして[KIRITO Tour 2024-2025「CROSS OVER THE TIME AXIS」]の開催も決定しているKIRITO。KIRITO自身の生き方を俯瞰したような「CROSS」という言葉の持つ意味、変わらない核の部分に迫る。
──この取材を行っているのが8月末。ニューアルバム『CROSS』の歌入れ真っ只中ということで、こういう状況で話を聞けるのは珍しいですね。
そうですね。今は歌詞を書きつつ、歌も入れつつというところで。歌詞が全部出揃うまで待っていると間に合わないですから。
──近年のソロ作は、サポートギターのJOHNさんと密にやり取りしながら作業していますが、そこは今回も変わらずですか?
ええ。実際にJOHNに来てもらって、対面でまず自分がアレンジを考えて、あれこれ試しながら、フレーズが決まったらJOHNにすぐに弾いてもらって録音していく形なので、だいぶヘヴィな作業でしたけどね。
──JOHNさんには瞬発力が求められますね。
そう。どこかでつまずいちゃうと流れが止まってしまうので、できるだけ流れを止めないようにしてやり取りしていく共同作業ですよね。だから、そこにはある種の緊張感がキープされていますよ。
──そうしたなかで、回を重ねるごとにこちらの意向が伝わりやすくなってきたなと感じたりもします?
アルバムを一緒に作るのが3枚目ということもあるし、JOHNも俺のギターアレンジの推移をずっと見てきているので、そういう部分はあると思います。ただ、その上で「こう来るか」っていう驚きや発見をJOHNが感じられるようなチャレンジを自分もしているので。ギターダビングの仕方だったり、リズムに対してのフレーズの入れ方だったり、その辺りでの新しいアイデアを共有しながら作業してましたね。
──いかにセオリーにとらわれないかというアプローチは、PIERROTの頃から掲げてきたことですね。
だから、ここまでやってくると既存のセオリーを無視するというよりは、いろんなセオリーを自分が新たに作ってきた中で、さらにそこにないものを作ろうとしていて、破壊と再生みたいな作業を自分自身の中でやってるような気もしますけど。ギターのアプローチに関して、長い年月の中で自分の中での発明というか、いろんな引き出しができていく中で、それを把握した上で壊していくっていうのかな。どこかの引き出しに頼るんじゃなくてね。彼はメタル寄りの畑にいた人なので、「ああ、こういうアプローチがあるんだ」って驚くことが多かったと思う。
──緊張感が続いていた分、ギター録りが終了して解き放たれたときには、JOHNさんは安堵感があったんじゃないですかね。
ああ、やっと終わって、朽ち果てるようにしてましたね。
──朽ち果ててましたか(笑)。その後のボーカル録りに関して、現在は完全にセルフプロデュースだと思いますが、ちなみにプロデューサーがジャッジしてた頃というのは、いつ頃までさかのぼるんでしょう?
えーと……Angeloのときはセルフだったし、PIERROTも後半はセルフだったので、もう、はるか昔ですね。
──時にはプロデューサーを立てていた形が少し懐かしくなったりもしますか?
ああ、どうだろうなぁ……? まあ、厳密に言うとAngeloの3人編成の時代……ソニーと契約していた頃に一時期プロデューサーがいたけど、第三者としてプロデューサーがいると当然自分の負担は減りますよね。ただ、やっぱり僕の場合、PIERROTの頃にプロデューサーがいた時代からずっとそうなんですけど、第三者のジャッジはとてつもなく優しいなと。「あ、これでいいんだ」みたいな感覚になるんですよね。そうしたときの自分の中での満足度がフルで10だとしたら、2ぐらいのところでしかなくて。第三者が受け取る良いものと、自分自身にOKを出す良いもの、そのジャッジの基準に距離がありすぎるんです。なので、作っている人間としては、大変でも自分自身が納得いくものを突き詰めるほうを選んだということですよね。大変な作業ですけど、完成させたあとに最大限自分が満足してるものを聴いてもらいたいという想いがある。そういうところから、ずっとこの形を続けてるってことですよね。
──なるほど。そして、『CROSS』はかなり早い段階でアルバムタイトルが発表されてましたが、ここにきてすごく象徴的な言葉を持ってきたんだなと感じていて。“運命の十字架”というようなイメージもあれば、いろいろな人たちと人生が“交差する”ことを俯瞰して描いているのかなとも思ったんですね。それは、ここ最近のKIRITOさんの活動……ひいては生き方を指している言葉という印象でした。
その辺りは今後明らかになる曲タイトルや歌詞の内容だったり、作品の詳細が見えてくれば分かっていくと思うし、たしかに名義を問わず僕自身がやっていくことの点と点をつないでもらうと『CROSS』の世界観に合致していくと思います。長年活動してきた上で、今だからこそ“CROSS”っていうキーワードがよりリアルに感じられるところがあって、そこに対して表現すべきことがしっかりと見えるんですよね。“CROSS”という言葉を深掘っていくと、宗教的な意味での十字架であると同時に、縦軸と横軸のラインが交差するポイントという意味での“CROSS”でもあるし。あとは、生きてきた中で背負ってきたものがあって……それは“十字架を背負う“というカルマ的な意味合いとも重なるし。今、自分が表現すべき“CROSS”というキーワードが、いろんなものに当てはまると思ったんです。
──なるほど。
ただ、自分の中では『NEOSPIRAL』、『ALPHA』、そして『CROSS』というところまでの流れは早い段階からあったんですね。だけどね、これが僕の特徴かもしれないけど、ご存知のとおり、さかのぼればPIERROTのときから、言ってみたらある程度の筋書きというかカラクリみたいなものが存在して、そこに現実が伴っていくという現象はずっとあったと思うんです。ただ、それは決して予言とかではなくて、自分が想定し得る、「おそらくこうなるかもしれない」っていう未来に対する予想みたいなもので。しかも、それはひとつではなくて、もしかしたらこっちかもしれない、あっちかもしれないっていう、いわゆる量子力学的なパラレルワールドって言うのかな。この方向に進んだら、こういう世界線が待ってるかもしれないとか、そういうものがいくつかある中で、どこに行ってもツジツマが合うような、そういう世界観作りや言葉選びをやってきたつもりだから。それが現実と合致したときに、あたかも予言のように映るんだろうけど、それはどうなるか分からないいくつかの世界線の中で、「おそらくこっちに向かうんじゃないか」と示したものがたまたま合致した結果なんだと思うし。ただ同時に、自分の味つけの仕方だと思うんだけど、その世界線が想像と違ってたとしても、そこにあるキーワードには何かしらの関連性が生まれるという言葉の動き方はずっとしてると思うんです。だから、どの形に転んでもつながっていくというかね。
──それは、「可能性はどれも決してゼロではない」という視点で描いているからこその話なのかなと感じます。
そう。だから、選択によって未来が分かれていくという事実はあるにしろ、世界線が違うとはいえ、完全なパラレルワールドや別世界ではなくて。やっぱり、どれもがそれまでの生きてきた積み重ねから生まれる未来なので、何かしらの関連性があるわけですよね。それは大元が自分なわけだから、まったく別物にはならないんだろうなって思うんです。
──たしかに。また、先日は有村竜太朗さんとのツーマンライブが開催され、お互いのステージで共演する場面まで生まれましたが、ああいった出来事もひと昔前では考えられない世界線じゃないですか。
ソロの立ち位置だからこそできることもあるだろうし、バンドだからこそできることもありますよね。で、今現在はKIRITOとして、これまでの経緯を否定することなく、それを踏まえた上でより確信を持って、余分なものを取り払ってやることもできるし。同時に、自分の核心は変わらずに新しいものを取り入れることもできるようになって、より自由さは感じていますよ。だから、その結果のひとつですよね。
──ソロとしてのスタンスが軸にあるから、それこそPIERROTのメンバーとして、しかもDIR EN GREYと対バンするという、ファンにとってはドリームマッチ的なものも見られるわけで、自由度の高さを感じます。
Angeloをやってきて、今はソロとして活動しつつ、ここで再びPIERROTもあるという時の流れの中で──そこで俯瞰してもらったときに、その核心にあるものがKIRITOだという視点で見てもらうと、いろんなものがつながると思うんです。もちろんKIRITOはKIRITO、PIERROTはPIERROTっていう別モノの視点で見てもらうのもいいんだけど、ただ、いろんな流れがあることを踏まえて俯瞰した場合、そこにずっと変わらずに脈打っているものは当然見えるはずなんでね。可能ならそっちのほうまで俯瞰してもらうと、より面白く感じるんじゃないかな。すべて関連性があるし、そのシナリオを書いているのもKIRITOなので。だから今、ソロで活動していることがすごく重要になってくるんですよね。
──悔いのないように、全力で今やれることはやりきるという心意気みたいなものを、特に最近のKIRITOさんの動きから感じているんですよ。
まあ、ここまではやっている、って感じですかね。
──ここまでは、ですか?
そう。たとえば、Angeloのときから継続して毎年フル・アルバムという形でリリースしてきて、そのペースでソロになってからも3枚のアルバムを作ってきましたよね。ペースの部分だけで言えば、ここまでが峠のような気はしてるんですよ。このペース感でこの先もやるのかというと、それは本当に分からない。ただ、ここまでの峠みたいなものはしっかり作ろうと思ってたので、このペースでやることは決めていたんです。それは別に年齢的なことを考えた話ではなくてね。この先の部分で言うと、ひとつひとつの作品の世界観をきっちり見せるために、どれくらいの時間が必要なのかっていうのは改めて考えないといけないのかなと今は思ってますね。
──何とそうでしたか。
ただ、自分のことなんで、むしろアイデアが生まれてきたら、より速いペースでやっちゃうような、今の話と逆行するようなこともするかもしれないけど。だから、自分がいつまでどういう形でできるかなんて分からないから、年齢を計算しながらやることもないし、本当にいつ終わってもいいぐらいの気持ちでやってますよ。自分自身もそうだし、周りも「きっとそれでよかったんだ」と思えるようなものにするには、それぐらいまで注ぎ込まなきゃいけないから。何に関してもペース配分を考えてやってるわけじゃないっていうことですね。