──今後やっていきたいことはまだまだありますか。
こうやって創作をしてる人なら共通して分かってもらえると思うんだけど……今は特にアルバムの制作中だから感じるけど、毎回「もう何も出ない」っていうくらいのことをしてるんです。ただ不思議なもので、スポンジみたいに絞りきったときはカラカラになるんだけど、なんだかんだで、次にやりたいことや新たに出てくるアイデアとかでひたひたと満たされていって。
──一度カラカラになったスポンジは、どういうインプットによって再び満たされるんでしょう?
本当に日々の生活によってですよ。いろんな音楽を聴いてどうこうっていう次元ではなくて、生きていればいろんなことがあるし、そこには感情の振れ幅もあるわけで。それはもう、いいこともあれば悪いこともあるっていう、その全部がインプットになりますね。
──その日常の中で、それこそ竜太朗さんとのツーマンライブにおいて、彼の曲を相手のステージで歌うというのは刺激的な機会ですよね。
ええ。まあ、ほぼない機会だし、それはそれで面白いですね。やっぱり自分が生みの苦しみを知っているからこそ、人が作る曲も、その人が生みの苦しみを経て世に送り出した作品だなっていうことはよく分かるので。それを1曲でも歌わせてもらう以上は、そこに責任があるというかね。しっかりと自分なりに消化して噛み砕いた上でやらせてもらわないと、作った人に対して失礼だっていう気持ちになるんですよ。
──ああ、なるほど。しかも同じ時代を生きてきた人であれば、その辺りはよりリアルに感じられるんでしょうね。
本当にそうですね。竜太朗くんの曲を事前にしっかりと聴いて、歌詞も自分なりに噛み砕いた上でステージに立ったんですけど、なんかね、それはすごく感じましたね。自分と同じ時代を生きてきて、2人とも今に至るまで活動を続けていて……下の世代の人とかにはない深さを感じたり、自分がやってきたことにも通じる、すごく共感できる世界がそこにあったりしてね。世界観の深さとか、言葉ひとつひとつの並びの行間にある景色とか。竜太朗くんの曲なんだけど、他人の曲とは思えないぐらい共感できるものがあったから、こういう言い方をしていいのか分からないけど、自分の新しい曲ぐらいの気持ちでやれたと思います。
──おお、そこまでですか……何かすごい話が聞けましたね。かたや竜太朗さんがKIRITOさんの曲を歌うというのも新鮮な光景だったんじゃないですか。
たしかに。まあ、「I BLESS YOU」はMUCCと対バンしたときに逹瑯も歌ってくれたので、“誰かに歌ってもらうならあの曲”みたいなスタイルができてたのかな。ただ、まだ2回しかやってないから、次はもう違う曲にするかもしれないけど(笑)。
──この制作期間中、他にアコースティックライブなども挟んでいましたし、スイッチの切り替えが大変だったと思いますが、あとはアルバム完成に向けて集中するのみですね。
まあ、正直言って毎回楽ではないし、順調じゃないけど、納期は守るつもりです。
──はい、そういう人だってことは知ってますので(笑)。そして、『CROSS』を携えた全国ツアーも発表され、サポートメンバーは今やおなじみの面々ですね。少し前であれば交わらなかったような人たちと組んでツアーを廻るのもアルバムタイトルとつながるものがあると思いますが、KIRITOさんから彼らの世代に継承していこうという想いもありますか?
いや、継承しようという気持ちはないですね。むしろ、僕自身の中で嬉しい発見のほうが多い。さっき言ったように、竜太朗くんと共通するような世界観の深さだとか景色づくりみたいなところでは、やっぱり自分と同じくらいの世代の人のほうが共感できるものはあるんだけど、プレイヤーという視点で見ると、彼らのような世代の人たちは洗練されていて、レベルアップしてると感じることは多いですね。だから、美味しいところどりみたいな形でやれるのもソロならではのものだと。
──ははは、美味しいところどりですか。
こっちが発見したり、学べるところもたくさんあるからね。下の世代だからこそ持っている新しいパワー感みたいなものや新しい解釈の仕方は、どんどん僕自身が吸収していきたいと思ってるから。始めた時代がみんなより早いからって、それで完結するんじゃ何の意味もない。やっぱり今を生きている以上、この時代の中で合った形で洗練されたものを常にやってきたいわけで。
──そのスタンスから生まれる新しいものもきっとあるでしょうし。こうしてサポート陣がほぼ固定されているのは相性の良さなんでしょうね。
まあ、それは一番にあるし、より具体的に言うと、ギブ&テイクじゃないけど、彼らからもらえるパワーだったり発見だったりがありつつ、同時に“じゃあ今度は僕が何をフィードバックしてあげられるんだろう”っていうところでキャッチボールができているので。それは継承っていう意味のものではなくてね。たとえば本番前に、毎回言うことは違うんですけど、サウンド面や技術的なことではなくて、僕だから見えるステージ上の景色などについて、「こういう景色を作っていきたい」という風に伝えたりするんです。観客にこういう形で見せたいんだ、とか……たとえば、「鉛の爆弾みたいなものを見せるんだよ」とか。抽象的で絵画的なイメージなんですけど、でもそれが伝わるんですよね。サポートメンバーの中で共有できて、変に言葉でつながなくても同じ映像が見られるというか。そういうやり方は、僕が活動してきた中で手に入れた、彼らに伝えられるものだと思うから。お互いにフィードバックしながら一緒にやっているんですよね。
──これまでの実践の場で、身をもって培ってきたものですね。
音楽的なものを伴った活動をしつつも、僕がそこで見ていたものが景色だったりするし、あとはストーリー的なものを共存させてやってきた自分ならではの伝え方なんだと思います。
──当然、ライブのシチュエーションによって伝えるものは変化するんですよね?
そう、違いますね。こういう場所で、こういう状況で、その上でいろんなファクターが集まっていて、今だからこう見せたいと……だから、「たとえるなら、こういうものだ」とか。そういったことの繰り返しで、ひとつのツアーが起伏を持ってファイナルに向かうこともあるし。竜太朗くんとのライブだったら、「ツーマンならではの、こういう見せ方をするんだ」っていうようなことを話したし。それも全部、抽象的というか絵画的ではあるんですけど。技術面はすでに分かってる人間ばかりなんで、その技術を集めた上で今回どう見せるのか……毎回伝えることは微妙に違うんですけどね。
──せっかくの機会なので少し教えてもらえますか。
鉛のミサイルや爆弾とか言うこともあるし、あるときは、真夏の晴れた昼間の太陽だったり、雨や風の景色だったりすることもあるし。
──先ほど“鉛の爆弾”と聞いたときは不穏なものばかりなのかと思いましたが、振れ幅の大きい、いろんな情景があるわけですね。
そう。それも結局のところは、みんなの手によって音楽的なアプローチに変換されるわけですよね。じゃあ、その伝えられたイメージをどういう風に聴かせるのか。たとえば、アンサンブルの重心をすごく低くして、エッジを効かせるように意識したりすることもあるし。そこは細かい話よりも、全体のアンサンブルについて考える感じですね。個人個人が受け止めて、解釈して、咀嚼して、それぞれ表現してくれってことなんですが、だからこそ面白いわけで。それで各パートが重なったときに、何か大きなものに見えるっていう意味では、やっていることはバンドと変わらないですよ。
──そうした現場での血の通った積み重ねを経ての(『NEOSPIRAL』以降)3作目のスタジオ・アルバムですから、より楽しみになります。
ソロではあるけど、もうその辺のものじゃ太刀打ちできないくらいにバンドサウンドですから。あと少し……少しでもないのか、まだ大きな作業はありますけど、楽しみに待っていてください。
Writer:早川 洋介 / Photographer:小松 陽介(ODD JOB) / Hair&Make-up:杉田 純子 / Styling:越中 春貴(RIM)、斉藤 理歩(RIM)
【LIVE SCHEDULE】
KIRITO Tour 2024-2025「CROSS OVER THE TIME AXIS」
2024.11.16(土) YOKOHAMA Bay Hall
2024.11.17(日) YOKOHAMA Bay Hall
2024.11.24(日) SUPERNOVA KAWASAKI
2024.11.25(月) 恵比寿LIQUIDROOM
2024.12.3(火) 仙台Rensa
2024.12.7(土) 札幌PENNYLANE24
2024.12.14(土) 福岡DRUM Be-1
2024.12.21(土) 梅田CLUB QUATTRO
2024.12.22(日) 名古屋ボトムライン
2024.12.25(水) Spotify O-EAST(FC限定)
2025.1.5(日) Spotify O-EAST
2025.1.6(月) Spotify O-EAST
サポートメンバー:Gt.海(vistlip)、Gt.JOHN、Ba.Chiyu(SLAPSLY)、Dr.Hiroki(C-GATE)
【RELEASE】
NEW ALBUM「CROSS」
2024.11.13 Release
10 Songs Include
※詳細は後日発表